「晴れたらいいね」を読みました(2月1日)
激しい揺れの後、目が覚めると紗穂はベッドに寝かされていた。「大丈夫か?意識はあるか」という男の人の声、「雪野さん?聞こえてる?」という女性の声。紗穂は、自分は地震にあい、雪野と一緒に救助されたのだと思った。
ところが様子が変だ。自分のことを雪野サエと呼んでいる。女は「あなたは昨日、勤務が終わってから丸一日宿舎に戻ってこなかったのよ。町から外れたパシグ川の川岸で倒れているなんて、いったい何をしていたの」という。紗穂は、今日は何日ですかと聞くと、8月16日だという。その後何年の8月16日か、今どこにいるのかを聞いて驚く。1944年8月16日、場所はフィリピンのマニラ。雪野は赤十字の従軍看護婦として働いていた。
紗穂は途方に暮れるが、いつか元の世界に戻れるだろうと、当面は雪野サエとしてこの世界で生きていくことにした。
しかし戦況は悪化していき、雪野たちはマニラから日本へ帰ることになった。喜んだのもつかの間、すぐに帰国の命令は取り消され、マニラの北にあるバギオへ行くことになる。列車に乗り、途中からはトラックに乗り、最後は歩いて。その時に紗穂が疲れ果てたみんなを元気づけるために歌った歌がドリカムの「晴れたらいいね」だった。みんなは変な歌と言っていたが、覚えて一緒に歌いながら歩いた。
戦況はさらに悪化し、バギオからさらに北の方へ歩いていくことに。
従軍看護婦がどんな過酷な仕事をしてきたのか、そして兵隊たちは彼女たちの優しさにつかの間救われ、また戦地へと戻っていった当時の状況がリアルに描かれているすばらしい作品でした。
結末を言ってしまうと、紗穂は現代の世界に戻ってくることができます。しかし、1年間雪野サエとしてセンチで働いた経験はしっかりと覚えていました。
単なる従軍看護婦の従軍記録ではなく、2015年の常識をもってタイムスリップした紗穂が、それを当時の人たちに伝える場面もあり、当時の軍国主義一色の考え方に一石を投じることが度々ありました。かつて国のために戦い、死んでいくのが当たり前だった日本を再び出現させてはならないと思いました。
「晴れたらいいね」 藤岡陽子著 光文社 2015年7月20日発行 1200円+税