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「テミスの休息」を読みました(5月10日)

「テミスの休息」を読みました(5月10日)_d0021786_8492346.jpg藤岡陽子の小説「ホイッスル」に出てきた弁護士事務所の話です。大きな弁護士事務所に「イソ弁」として働いていた芳川有仁は、いわゆる儲からない弁護を引き受けようとしないその弁護士事務所を辞め、独立することに。そしてその弁護士事務所で働いている事務員の沢井涼子は夫と離婚し、一人息子の良平を引き取り、一人で息子を育てていた。

お互いに好意を抱いているが、結婚までには至らない。そんな二人が弁護士事務所で引き受けた依頼が5件描かれている。その他にもう一編は有仁の実家の遺産相続をめぐる問題が題材になっている。

「卒業を祝う」では、結婚式を2週間後に控えた女性・桐山希が「婚約破棄は、どのくらいの罪になりますか」と言って駆け込んできた。

「もう一度、パスを」では、国選弁護人として弁護することになった宇津木亮治の殺人事件。彼は心を閉ざして何も語らなかった。しかし、少年院から出た彼を雇ってくれたすべての会社の社長が情状証人になってくれたという話や家族の彼への思いを聞き、「もう死刑になってもいい」と言っていた宇津木亮治はもう一度人生を走り始める覚悟をするのだった。

「川はそこに流れていて」は有仁の祖母が亡くなった後の遺産相続をめぐる話である。和歌山県北山村という山の中の小さな村に住んでいた祖母が亡くなり祖母の遺言状が見つかったという。そしてそれには「平木紀行に全財産を相続させる」と書かれていた。平木紀行は祖父が50代半ばの時に愛人に産ませた子どもだった。有仁にとっては6歳年下の叔父にあたる。伯父や伯母たちはこの祖母の遺言状に不満を抱くが…。

「雪よりも淡い始まり」では有仁の大学時代の友人須貝摩耶が自分の不倫相手の妻に渡した400万円を返還させるという判決が出て、喜んで有仁の事務所を訪ねてきたところから始まる。摩耶は布施由美の夫と不倫をし、彼は離婚して摩耶と結婚すると言っていた。ところが離婚はしたが、摩耶とは結婚しないと言い出したという。摩耶はその不倫相手と妻との離婚に当たって手切れ金として400万円を布施由美の口座に振り込んだ。ところが摩耶は夫の口座から振り込んだので、夫が布施由美の口座にお金を振り込んだという形になった。

「明日もまたいっしょに」では事務所の事務員・沢井涼子の高校生になる息子・良平の保育園時代からの友達・蒲生勝の母親が仕事帰りに交通事故を起こして、その処理をめぐる話である。

「疲れたらここで眠って」はいわゆる過労死の問題を扱った話である。IT企業で働く北門和良は過酷な長時間労働の挙句、自殺してしまう。だが労災認定は認められなかった。会社側は証拠となるような書類を出さなかったからだ。父親は息子の無念を晴らし、同じようなことが二度と起こってほしくないと10年越しの裁判を続けている。そして間もなく結審するのだが…。

いわゆる裁判ものであるが、すべての事件に人間がうまく描かれている。法律の理屈ではなく、人としてのあり方、生き方について書かれている。事務員の沢井涼子と有仁の関係もうまく描かれていてほほえましくなる物語である。

「テミスの休息」 藤岡陽子著 祥伝社 2016年4月20日発行 1500円+税
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by irkutsk | 2018-05-10 05:48 | | Comments(0)