「砂上」を読みました(7月5日)
令央は母親のレミと二暮らしだったが、その母も一か月前に亡くなっていた。小中学校で同じクラスだった剛のビストロを手伝って月6万円もらっていた。ほかには10年間連れ添った夫の不貞で離婚し、慰謝料の分割払いで月々受け取っている5万円、あわせて11万円が令央の収入だった。贅沢と病気とギャンブルさえしなければなんとか暮らせる額だった。
令央には15歳年下の妹・美利がいたが、今は家を出てカラオケ店の店長をやっていた。
乙三が次にやって来たのは三月に入っての二週目の土曜日だった。だが彼女の意見はまたしても辛辣だった。「詳細な体験記、という感じです。日記としてならば、読むこと自体は難しくありません」、「三人称でとお伝えしたはずです。私は小説が読みたいんです。不思議な人じゃなくて、人の不思議を書いてくださいませんか」、「詳しく書いてあるところと端折りすぎている部分が逆なんですよ。知っていることをアピールして、知られたくないことを端折るから創作的日記になってしまうんです。虚構は、端折りたいところに踏み込んで、嘘をついていますと嘘をつき、同時に現実をかすませるものだと思っています」と言われ、全面改稿を求められた。
そしてこの小説を書く中で、自分の生活のひとつひとつが小説の素材になり、それを見ている自分がいることに気が付く。また浜松の助産師・竜崎豊子を訪ね、彼女から母・レミの18歳の頃から3年間の写真を撮った写真集を見せられ、彼女の人生を、そして自分の父親について聞かされる。
レミ・令央・美利の3人の女の生きざまが生々しく描かれた素晴らしい小説でした。
「砂上」 桜木紫乃著 角川書店 2017年9月29日発行1500円+税