「納屋を焼く」は文字通り今は使われていない、誰にとっても有用ではなくなく、なってもだれも困らない納屋を燃やすのが趣味だという彼。彼は彼女を通じて僕と知り合い、自分の趣味の「納屋を焼く」ことについて話す。近々この近くで納屋を燃やす予定だと予告した。僕はうちの近くにある使われていない納屋を調べ、毎日ジョギングの途中に5か所の納屋を見て回った。しかし、焼かれた納屋はなかった。久しぶりに彼に会ったとき、そのことを言うと、彼は平然と「燃やしましたよ」と答えた。さらに付け加えて「あまりにも近すぎてそれで見落としちゃうんです」と言った。その後、彼は「ところであれから彼女にお会いになりましたか?」と聞く。
納屋と人間を同列に並べ、役に立たないものは燃やしてもいい=殺してもいいという理屈で彼は行動していたようだ。まるでドストエフスキーの「罪と罰」でラスコーリニコフが社会に対して害悪しかもたらさない金貸しの老婆を殺してもいいんだと思った考え方に通じるものがある。
ほかにも「蛍」、「踊る小人」、「めくらやなぎと眠る女」、「三つのドイツ幻想」も収録されていてそれぞれ興味深い内容だった。
「蛍・納屋を焼く・その他の短編」 村上春樹著 新潮文庫 1987年9月25日発行 400円+税